大判例

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札幌高等裁判所函館支部 昭和26年(う)99号 判決

被告人は原審において相被告人センとの共謀事実及詐欺の犯意あることを否認し来りたるものにして、果して被告の行為が詐欺に該当するや否やはあらゆる角度より公平妥当に観察の上之を決せざるべからず。

惟ふに検察官其他犯罪捜査に関係する官吏は職責上多数の犯罪調査に関係するに依り知らず識らず其潜在意識に蓄積せらるる心象により被疑者の取調並に其供述録取に際し被疑者の供述を歪曲し犯罪構成要件に適合する様蒐集其要旨を録取し供述調書を作成するに至るを常とするを以て近時科学的捜査、録音盤設置を主張するに至るは此弊を矯めんとする趨勢を物語るものなりとす。従つて捜査官の供述調書の記載と公判に於ける供述との間に相反する場合又は齟齬する場合に於ては弁論公開主義の原則上公判の供述を第一義とし検察官其他捜査官吏の供述調書を第二義又は第三義として観察すべきを至当とす。

従つて本件の心証形成乃至採証に該りては公判に於ける被告の供述を第一義とし公平妥当に観察せざるべからず。而して本件を此原理に基き先ず公判の供述を左の各項に分ち検討せんに、

(一) 本件小判製作の目的、此点に付公判に於ける被告の供述によれば

イ この小判は真正のものとして売つたのではなく美術品として売つたもので作つたのは私で(中略)私はセンに売る時は必要があれば鑑定して貰つた上値をつけて貰つた上売る様に言つて居り、買う人もその美術的価値を認めて買つてくれたものと思います

ロ 検察官は被告人正雄に対し(中略)、問、骨董品として売るつもりであつたのか、答、技術と美術品としての値を見て貰いたかつたのです、問、技術を買つて貰うつもりなら何故被告人が作つたと言はなかつたか、答、商売人が見ればそんなものだという事が判ります、問、どこを見るのか、答、表裏面を見れば判ります

ハ 被告人センの供述中、問、小判を被告人(セン)に渡す際正雄(被告)は何と云つたか、答、この小判は金銀が入つているから骨董を愛する人なら買つてくれるから先方の骨董価値を認めてくれる値段で買つて貰つて来いと云はれました」の各供述に徴せば被告に於て本件小判を製作せるは之を真正の小判として売却又は金円騙取の目的にあらずして古典美術的骨董品として売却することを目的としたるものなることを看取するに難からず。

(二) 製作小判の価値と真正小判の価値

被害者外村初太郎の鑑定によれば本件小判の価値は金五百五十三円五十九銭也とありて被害者の鑑定なるにより過小評価すべき習癖あるにより措信し難きも被告の供述によれば問、小判はいくらで売るつもりであつたか、答、作つた当時の原価は一枚弐千五百円位でその値に売れればよいと思つて居りました(中略)、弁護人の問に対し、問、この原価は弐千五百円というが手間賃を入れてか、答、そうです、資材のみの価格が五百円、消耗品、手間賃を含めますと弐千五百円となりますとありて前記被害者の鑑定価格は資材のみの価格と見れば相当なるべく、従つて此点に関する被告の供述は説明を要せずして措信し得べく、従つて被害製作の小判の価格は弐千五百円位が相当と思考す。

然るに真正の草文小判の価値に付考察するに被害者外村初太郎の鑑定によれば一枚五千円也とあるも金の時価換算によりても適当ならずと思考するのみならず前述の理由により措信し能はざる処にして真正の時価は少くとも七、八千円以上壱万円也位が相当と思考さる。

而して相被告センに於て(イ)外村初太郎に対して壱枚に付四千円の割五枚分合計金弐万円也にて売却し、(ロ)渡辺良一に対しては一枚参千七百八十五円の割五枚分合計金壱万八千九百弐拾円にて売却したるものにして真価の約半分以下の価格にて売却したるものにして此点より観察するも真正の小判として売却したるものにあらずして骨董品として模造品として売却したるものなることを看取するに難からざるのみならず。

(三) 買受の相手方は、各時計商又は古物商にして貴金属を専門とする商人なれば其品質並其実価を知らざる理由なく本件小判を実価の約弐分の壱以下の価格にて買受くる以上真正のものとして買受けたるものにあらずして模造品又は骨董品として買受けたるものにして其金円授受は騙取したるにあらざること明瞭なるべし。

殊に真正の小判は柔軟性に富み美しき金属性の響を発すべきものなるに押収に係る小判を検するも柔軟性なく又美しき金属音を発せざるに徴し此点に関する消息を知るに難からざるべしと思考す。

(四) 手段方法

本件にて売却の手段方法に付考察するに

(イ) 被告正雄の供述によれば、問、どの様に言つて売る様に妻センに話したか、答、これを持つて行つて見て先方で必要があつたら鑑定でも何でもして貰つてから売る様にと言いました

(ロ) 相被告センの供述中、問、小判を被告人(セン)に渡す際正雄(被告)は何と之つたか、答、この小判は金銀が入つているから骨董を愛でる人なら買つてくれるから先方の骨董価値を認めてくれる値段で買つて貰つて来いと言はれました

(ハ) 同人供述中、問、外村方に行つた際どの様に言つたか、答、こんなものがあるのですがいかがなものでせうかと言つて夫の作つた小判を出したところ、男の人は鑑定かそれとも売るのかと聞いたので売つてもよいと言いましたところ店先で一寸薬やなにかで鑑定したりして居りましたが奥に入り十分位で出て来て、面白いから買う、珍らしいものをどうして持つていたねと言うので親からの小判だと言いました

に徴し被告の意思は現物を鑑定其他の方法にて評価の上先方の値段で価値をつけ其上売却するを目的として何等積極的又は消極的手段を弄せざるを欲し相被告センに於ても之を弄したることなく専ら先方の鑑定等の方法により評価づけの上売却したるものなれば欺罔手段を弄したとは謂え得ざるべし。

唯相被告センに於て親から譲り受けたもの云々の言を弄したるは被告の意思にあらずしてセンに於て之が売却の際に於て愛嬌に過ぎず、又同人に於て先方が小判を切断せんとしたるを阻止したるは小判の価値の損するを欲せず他の方法によつて鑑定評価を欲したる迄にして之を以て直に欺罔手段を弄したるものとは云ひ難かるべく猶次の供述を参酌せば益々明瞭なるべし。

(ニ) 同人供述中、問、渡辺方で小判を切ろうとしたら切らないでくれと言つたのは何故か、答、一枚作るのに二日も三日もかかるので切られてはもつたいないと思つたので言つたのです(中略)、問、切られては中が金でない事が発見されると思つて言つたのではないか、答、(前略)前に申し上げました様にもつたいないと思い他の方法で鑑定してくれと言つたのです

(ホ) 同上、問、何故親からの小判と言つたのか、答、その様に言つたのは夫が作つたと言つては骨董価値がうすすぎ又珍しいという先方の期待にそむくと思つてその様に言つたのです

(五) 共謀の点、原判決は被告と相被告センとが共謀せりと認定せるも被告に於ては極力否認するものにして(イ)被告正雄は冒頭陳述として「共謀の事実及犯意はありません、この小判は真実のものとして売つたのではなく美術品として売つたもので作つたのは私、センは関係なく、唯売つただけなのです、私はセンに売る時は必要があれば鑑定して貰つた上値をつけて貰つて売る様に言つて居り、買人もその芸術的価値を認めて買つてくれたものと思います(ロ)同人供述中、問、親のものだと言う様に話さないか、答、言いません(ハ)相被告セン供述中、問、何故親からの小判と言つたのか、答、その様に言つたのは夫が作つたと言つては骨董価値がうすすぎ、又珍らしいと言う先方の期待にそむくと思つてその様に言つたのですとあり之に徴するときは被告の意思は自己製作の古典芸術的価値作品を希望者に頒布する意思にして相被告センに於ては専ら希望者に売却せんとする意思ありし為め多少被告の意思に反する手段を弄したる形跡あるも被告との意思と一致せざりしにより斯る結果を生じたるものなり、而して唯両者は夫婦なりとの一点を除き自余に於て共謀を裏書すべき何等の証拠存在せざる本件にありては両者間共謀ありとの事実認定は相当ならずと思考す。

以上綜合考察するときは被告は専ら古典芸術品たる小判の模造品を希望者に頒布せんとしたるに過ぎざるものにして欺罔手段を弄したるものにあらざるを以て詐欺罪に問擬したる原判決は不当なるにより刑事訴訟法第三百八十二条、第三百九十七条により破棄せらるべきものと思考する。

というのである。

然しながら捜査官は犯罪が成立するように被疑者を取調べ、或は被疑者の供述を歪曲して犯罪構成要件に合致するように供述調書を作成するのが常であるとの所論は何等根拠なき妄説であつて採るに足らない、又捜査官作成に係る被告人の供述調書の記載と公判廷における被告人の供述とが相反する場合は弁論公開主義の原則上公判廷の供述を第一義とし、捜査官作成の供述調書を第二義、第三義とすべきであるとの所論は弁論公開主義の誤解に基くものであつて他に正当なる根拠がなく、被告人の供述調書の記載が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるときは之と公判廷における被告人の供述とは対等の証拠能力を有するものであること刑事訴訟法第三百二十二条により明らかであつて、その証拠価値はその供述のなされた前後の事情、その供述の内容、及び他の証拠との比照によつて定まるものであり、そのいづれを重しとするかを予め抽象的に定め得るものではない。而して原判決が証拠として掲げる司法警察員作成に係る被告人の供述調書はその内容形式及び他の証拠と比照すると被告人の公判廷における供述よりも信用し得べきもので事実に合致していることが認められ之と原判決が挙示する他の証拠とを綜合すると、原判決認定の事実を認めるのに十分であり、記録を精査しても右判定が誤りであることを認めることはできない。従つてこの点に関する論旨は理由がない。

(註。本件の破棄理由は量刑不当)

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